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令和七年四月に施行される改正建築基準法は省エネルギー基準の全面適合義務化と「四号特例」の縮小という二本柱を掲げ、確認申請の在り方や構造規定を抜本的に刷新します。
これまでは壁量計算のみで済んだ二階建て木造住宅でも延べ二百平方メートルを超えれば許容応力度計算を求められる可能性が高まり、安全性能と環境性能を同時に説明する責任が設計者に課せられます。
建築確認の対象件数は増加し審査期間の長期化も予測されるため、計画段階から省エネと耐震の両要件を統合的に検討し情報の一元管理と工程管理を徹底する必要があります。
本稿ではまず改正の概要を整理し次に建築基準法改正による影響と課題を分析し、最後に木造戸建の構造計算における実務対応を示すことで改正後の設計実務を円滑に進めるための道筋を提示いたします。
改正の概要
改正の概要で第一に挙げられるのが、住宅と小規模非住宅を含む全新築への省エネルギー基準適合義務化です。
この変更により、外皮性能と一次エネルギー消費量を設計段階で満たさなければ確認申請が受理されません。
第二に従来構造審査を大幅に省けた四号特例が縮小され、延べ五百平方メートル以下でも「新二号建築物」に分類されることで多くの審査項目が対象になります。
確認審査の標準処理期間は実質的に長期化し、これまで七日以内で済んでいた簡易審査が三十五日以内を要するケースが増えると見込まれています。
加えて耐火性能を確保した中層木造の規制緩和や大規模木造のための新しい構造評価手法が導入され、木材利用促進とカーボンニュートラルの実現を後押しします。
これらの動きは住宅業界のみならず非住宅分野にも波及し、設計・施工プロセス全体に大きな影響を及ぼすことになります。
建築基準法改正による影響と課題
建築基準法改正による影響は多岐にわたります。
まず確認審査の対象件数が増えることで自治体の審査体制が追いつかず、着工遅延リスクが高まります。
設計者は審査期間を逆算し、図書作成と質疑対応に十分な余裕を持たせる工程管理が不可欠となるのです。
次に省エネ計算と耐震計算を同時並行で行う必要が生じるため、入力作業や整合確認の負荷が増大します。
とりわけ中小規模の設計事務所では外部委託費用がコストアップ要因となりやすく、案件規模に応じた費用試算と顧客説明の精度向上が求められます。
資材面では高性能断熱材や太陽光発電設備の重量増加が柱断面や梁せいの再検討を迫り、部材寸法の増大によるコスト上昇が懸念されるのです。
構造安全性と省エネ性能の両立を図る新たな設計指針が必要であり、その実践にはBIMを活用したモデル一元化と干渉チェックが有効です。
自治体ごとの運用細則や審査基準のばらつきが依然存在するため、早期の情報収集と担当審査機関との対話を通じた事前調整が不可欠になります。
木造戸建の構造計算と実務対応
改正後に最も直接的な影響を受けるのが木造戸建の構造計算です。
延べ二百平方メートル超の二階建て木造住宅では壁量計算に加え許容応力度計算や保有水平耐力計算の添付が実質的に必須となり、設計工程が一~二週間伸びると想定されています。
設計者はまず計算ソフトを最新版に更新し新基準に対応した入力項目を把握したうえで、社内のチェックリストやレビュー体制を再構築する必要があります。
基礎設計では地盤調査結果を数値化しN値計算法に加えて告示改正で導入される簡易検討法を併用することで、解析負荷とコストのバランスを取る戦略が有効です。
屋根荷重増加を見込んで梁せいに二〇%程度の余裕を持たせる設計手法は太陽光パネル設置による荷重変動に柔軟に対応でき、耐震等級三の取得を容易にします。
確認申請図書は省エネ計算書と統合して提出する様式が導入される予定であるため、入力ミスが構造計算値に直結しないようデータ連携の自動化と入力ログの保存が重要になります。
外注する場合でも設計者自身が計算根拠を説明できる体制を整えないと、質疑応答に対応できず着工が遅れる恐れがあるのです。
加えて施工段階での現場変更が構造計算値に及ぼす影響を即時に確認できるようクラウドベースで計算書を管理し、設計・施工・監理が同一プラットフォーム上で情報を共有する仕組みを導入すると手戻りを最小化できます。
最後に施工後の性能評価とフィードバックを蓄積し次回案件に活かすPDCAサイクルを確立することで、改正を単なる負担ではなく競争優位性を高める機会へ転換できるのです。
サプライチェーン側面でも影響が顕在化します。
断熱性能を高める高付加価値建材や耐力面材の需要が急増し発注から納入までのリードタイムが延びるため、設計段階で代替品リストを準備し早期発注を徹底する必要があります。
熟練大工の不足が続くなか仕様の複雑化は現場負荷を高めるため、モジュール化されたプレカット部材や解析情報を共有するタブレット端末の導入が現場効率を左右します。
